自作の単玉レンズ 90mm F4は予想を裏切る高画質でした

これは1838年4月24日~5月4日ごろに「ダゲレオタイプ」の発明者のダゲールがパリのタンプル大通りを撮影した写真で世界最古の銀板写真のひとつです。銀板写真は棺度が低く露光時間が10分~20分もかかっているので通りを行き交う人馬は写っていません。

カメラはしっかりと固定されているのでブレは目立たず、結構周辺部まで焦点が合っています。メニスカスレンズ(対物面が凸で反対側が凹)の単玉レンズだそうですが、当時からレンズは相当な性能だったことが、この写真からわかります。

受光素子の感度が飛躍的に高くなった現在なら、単玉レンズでもある程度絞りを絞れば高画質な写真が撮影可能なのではないだろうか? そう考えて、単玉レンズの自作をしてみたいと思っていました。

単焦点レンズではなく、1枚だけのレンズを使った単玉レンズですのでお間違いなく。例えば愛機ソニーα7iiに装着可能なマウントアダプターに塩ビ・パイプを接着剤で固定し、先端を板で塞ぎ、その板の中央に丸い穴を開けてレンズを固定すれば単玉カメラができるはずです。

第一の問題は焦点を合わせることです。口径の異なる2本の塩ビパイプを組み合わせて長さを調節すれば焦点合わせは可能なはずです。

第二の問題点は絞りを調節可能にすることです。単玉レンズの場合、相当絞り込まなければまともな画像にはならないだろうと想像できます。絞りを可能にするための方法としては、レンズの前に絞り板のホルダーを作り、幾つかの口径の穴が開いた絞り板を差し替えるのが現実的だと考えられます。

焦点調節、絞り調節とも、光洩れをふさぐためには精度の高い工作と、様々な工夫が必要になるので、自作には二の足を踏んでいました。

ところがある日、工作上の問題点を一気に解決する出来事が起きました。

父の形見のコンタックスRTSにはZeiss Planar T*の35mm, 50mm, 85mmの他にオマケでTEFNON H/D-MC ZOOM 35-70mm F2.5-3.5というズームレンズが含まれており、コンタックスマウントのレンズをソニーEマウントで使うためのアダプターを使って愛機α7 iiに装着して使っていました。

TEFNON H/D-MC ZOOM 35-70mm F2.5-3.5は国産の明るいズームレンズですが、カビと曇りが目立つので思い切って分解清掃に挑戦しました。分解清掃には成功し、レンズは非常にきれいになったのですが、組み立ての段階の最後に後玉群を固定しようとして工具を使って締めた時にゴリッと不吉な音がしました。カメラに取り付けると、画面右下方が白くなっていました。あの音はレンズの端っこが欠ける音だったのです。

絞れば使えないこともないのですが、標準ズームは他に何本か持っているので、TEFNON H/D-MC ZOOM 35-70mm F2.5-3.5の鏡筒を、以前から考えていた単玉レンズの制作の為に役立てられないだろうかと思い立ちました。ヘリコイドや絞りは機能的にしっかりとしています。

手持ちのジャンクレンズの中からTEFNONの鏡筒内に保持できそうな大きさのレンズを選別したところ、焦点距離が実測約90㎜で丁度良い直径のレンズが見つかりました。レンズ径は20㎜強なので開放で約F4という計算になります。

このレンズをTEFNONの絞りの前と後に仮留めして試写してみました。このTEFNONはマクロ付きのズームなのでレンズの前後移動域が大きく、レンズを絞りの直前に置いた場合も、絞りの直後に置いた場合も焦点合わせが可能でした。

絞りの前方にレンズを置いた場合、中央部のハレーションが強く出ることが分かったので、絞りの後方(カメラ側)にレンズを固定することにしました。レンズは後玉群筒のネジ部分にすっぽりと収まり、接着剤を全く使わずに単玉レンズが完成しました。

機械的強度は元のTEFNONと同じで、絞りも開放からF22以上まで調節可能です。レンズ筒に記されたF値と実際のF値はズレていますが目安として役立ちます。ズームリング、フォーカスリング、マクロリングを使って数10センチから無限遠まで正確にピントを合わせられます。自作単玉レンズと言っても普通のマニュアルレンズと同じように使えます。絞りは鏡筒の先端から約5センチの深さにありますが、絞り羽の前には何もないので、レンズフィルターを使うのが安全かもしれません。

早速、稲毛公園(千葉市)に行って試写しました。曇天の昼間でISO100なら1/125 F8で写せる感じの明るさでの撮影です。ここに掲載した写真の絞り値はあてずっぽうで記しました。

1/80 ISO200 F11

猫のヒゲも解像できています。そこそこ絞れば、画面中心部の半分の円内の解像度は実用に耐えそうです。

1/80 ISO200 F11

やはり中央部分の解像力は実用に耐えますね。

1/60 ISO320 F16

色はきれいです。このレンズが得意とする構図です。

1/60 ISO1000 F16

これもこのレンズが得意な構図。発色は気に入りました。

1/640 ISO200 F4

このレンズが不得意なのは全体にベタッとした構図です。開放にすると周辺部がボケて、収差も目立ちます。

1/60 ISO800 F16

そんな構図でも絞れば周辺部が見違えるほどマシになります。

1/60 ISO200 F16

このレンズが得意とする構図。発色がとてもきれいです。

1/1000 ISO200 F4 周辺ボケ大きい

このレンズの特徴が良く現れる構図です。絞りを3段階に変化させて撮影しました。開放にするとまるで50㎜F1.4開放で写したようなボケ感になります。

1/250 ISO200 F8 周辺ボケ少な目

少し絞ると丁度いい感じのソフトな写真になります。女性のポートレートに使えそうですね。

1/60 ISO200 F16 全体にシャープ

十分に絞ると単玉だということを忘れさせる写真になります。発色は開放でも絞ってもとてもきれいです。

1/160 ISO200 F16

中央部は結構な解像度なので、コントラストの高い被写体ならレトロな感じの絵が作れます。このレンズはこんな構図も得意なようです。

1/1600 ISO200 F4

開放で遠景を撮るとボロが出ます。周辺部の収差と解像度が非常に低いです。

1/160 ISO200 F16

コントラストの強い被写体なら、絞ればこんな写真になります。

いかがですか? 画角的には85㎜レンズを使っているつもりで撮れました。残念ながらモデルの女性(妻)の許可が得られなかったのでここには掲載できませんでしたが、周辺ボケが許される(あった方が良い)人物写真は、このレンズが得意とするところです。

このレンズの得手不得手を把握したうえで絞りを半分以下(計算上はF8~F22)に絞って使えば、新たな武器として役立ちそうです。

最大の不得手は逆光です。直射光が入らない場合でも、背景が明るいと画面中央部に白いハレーションが出やすいので、その点だけは注意して構図を考える必要があります。